上限の必要十分の可視化
はじめに
最大値・最小値の拡張的概念として上限・下限がある。上限の定義はシンプルで,「上界の最小値」であるが,定理の証明などで使う場合は論理記号で書かれた必要十分条件を使うことが多い。今回は「解析学入門(田島一郎)」にも登場する上限の必要十分条件が,実際に上限の定義を満たしていることをイメージでとらえてみる。ただし,上限の定義についてはすでに知っている人を対象として書いている。
集合の上界と上限の定義
集合Xの上限とは集合Xの上界の最小値のことである。ざっくり図で表現すると以下の図のαが上限である。
上限の必要十分条件
点αが集合Xの上限である必要十分条件は
(1)Xのどんな要素xを考えても,x≤αとなる。
(2)αからわずかに小さい値を考えると,その値とαの間にXの要素が存在する。
となる。
可視化による必要十分条件の理解
下の集合XについてXの上限が1であることは図的に明らかである。よって必要十分条件のαが1になること確かめることで,定義と必要十分条件の主張が同じであることを理解する。
まず,(1)からαは青色のどこかにあることがわかる。次に(2)について「αからわずかに小さい値」というのをα-εとした。このとき,どんなεを考えても,その幅内にXの要素が入るαはどこであるかを考えて欲しい。
やってみればわかるようにα=1となる。よって必要十分条件と定義は一致する。
まとめ
必要十分条件を視覚的に書くことで,条件と上限の定義が一致することがわかった。ここで大切なのは,論理記号で書かれた条件を視覚的に捉えることができたことである。数列や関数の収束などでも取り上げたが,論理記号や数式を実際のグラフに落とし込んで理解する操作は,性質を理解する上で必要な操作である。そしてそれが数学を理解することであると思っている。
関連記事
以下は数式や論理記号の可視化を試みた記事である。